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ノルディック・ブルウズ 1-7話

5/14/2018

 
ドッペルゲンガーの兄弟の話
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1832年アントウェルペン包囲戦で母親を亡くしたフェリクスは、孤児になり方々を放浪します。幸いフェリクスは特別な少年だったので、どこで生き延びるのにも不自由はしませんでした。しかし、孤独に疲れ果ていました。あるとき喉の渇きを癒そうと、泉をのぞき込むとそこにはあの時無残に殺され吊るされて死んでしまったはずの、ヒューゴの姿が映っていました。ヒューゴは、小さい頃の友達でした。
 
ヒューゴの影を映した泉は、彼にこう伝えました。
「君はきっと僕の影になる、あるいは、僕が君の影になろう。」
 
ドッペルゲンガーの兄弟を得たフェリクスは、父の死をきっかけにヨーロッパを離れ、イギリス人に交じりアメリカへと渡ります。しかし、彼の祖国への強いあこがれは、終生消えることはありませんでした。そして、再びヨーロッパの大地を踏むとき、フェリクスとヒューゴは行く道を別にするのでした。



1話 フェリクスとある質問者
 
これらは僕ら兄弟がまだ一緒に生活していた頃の話だ。どこから話したらいい。何が聞きたい。ここに来るのには、技術を使ったよ。自動運転は悪くない。僕らは人間とは違って、新しいものに抵抗がないんだ。ヒューゴとは上手くやっていた。実際、僕らは双子のように似ていたし、街に紛れるには都合のいい組み合わせだった。彼はまぎれるよりも、眠ることを選びたかったらしいが。白いシャツだ、あなたは白いシャツを着ている。僕らは、“白”は着なかった。白は何でもよく目立つ。人間は純白に憧れ、最も穢れていることに安らぎを見出す。あなたはどう。そうだ。僕たちは、人形を飼っていた。全てのことは僕が教えた。もっともあいつは無理をさせるから、死なせてしまうことが多かったよ。情けという名の我儘を人に着せるのは、彼の悪い癖だった。人形の話は、またにしよう。このチョコレート、もらっていい?甘いものが好きなんだね、僕らも大好きだ。思い出した。あれは赤い痣だった。ちょうどあなたの皮膚の下を走る筋のような色をしていたろうよ。
 
 
 「時計貸して?」
 
 「どうして。」
 
 「時間がわからないだろ。」
 
 「iPhoneがあるじゃん。」
 
 「かっこ悪いだろ。やっぱりいいな、これ。」
 
 「時間合わせておいてよ。」
 
 「あ。止まってるのか。」

 
寝込んでいる彼の代わりに僕が学校に行く。ただ姿が同じだというだけで、代わりが務まるわけじゃない。僕らは精神を共有してはいない。そのステージには、まだ至っていない。人間だった頃のレジリエンスが、互いに接続することを阻害する。人間はよほど、ひとりが好きらしい。彼のクローゼットを開けて、大きなパグのフーディを選んだ。僕らは同じ味がするのに、同じものを好まない。パグ。下手に目立つ方が、かえってうまく紛れる。僕らを管理する女の手が見えなければ、却って疑いの目を向けられる。iPhoneの振動は、Amazonの発送通知だ。僕らはあえて食べる必要はないが、食べなければ一切受け付けなくなる体をしている。人間の中にあって、人間の宝石のようにふるまう。それが僕らがうまくやっていく、最小の戦術だ。そうである以上、食べるという社会的人間風のふるまいは、日ごろ訓練をしておかなければいけない技術の一つだった。

 
「食べ物、今日届くよ。受け取っておいて。」
 
 「フェリクス。僕のナンバー、女の子と交換するのやめてよ。」
 
 「じゃあ僕のkikで、男に声かけるのやめろ。」
 
 「あっちから声かけてくるんだ。」
 
 「じゃあ。」
 

内側を探索して成長するというのは、経験ありきのことだ。何も経験せずに内側ばかり見ても鬱屈するだけだよ。僕が見たって、彼が見たことになるわけじゃない。あなたがここで聞く話を、あなたしか知らないことと同じだ。とは言っても、悩まない若さは、若さを無駄にしている。心の伸長なく、知性の適合ばかりでやりくりしてきたとは思わないで欲しい。僕らだって、成長する。だから彼と僕は、同じ道を歩まなかった。
 
 
 
 

2話 アレクセイ
 
朝起きて、歯磨きをして、新聞を少しかじってから朝日を避ける心づもりをする。あれは、力が充実していないと、やはり痛いからね。そう。僕らは戦って戦い続けた。そして得たものと言えば、経験だろう。あなたは他人の何倍も生きるということが、どういうことがわかるか。そうだね。鳥の巣は作ったことがある?枝を集めるんだ。卵が割れないように、少し注意が要るかな。僕らは時間をかけて巣を作った。それはすっかり焼き払われてしまった。あなたたち人間は、火をかけるのが好きだ。僕らは嫌いだ。せっかくして、苦労して作ったものを壊す必要がどこにある。それがつまり何倍も生きるということだろうどこまで話したっけ。学校?悪くなかった。ヒューゴも僕も、学校にはよく馴染んだ。このところでは、アレクセイという少年が、僕らをよく気に入ったし、僕らも彼のことは好ましく思ったよ。
 
 「ばらばらになるの?」
 
 「そう。自由と平和の青い小鳥も一発の.357マグナム弾でばらばらさ。」
 
 「きみってちょっと危ない奴だね。学校が終わったら、みんなで遊びに行かない?ヘンリーが新しいドローンで何かやるんだって。」
 
 「一度、家に帰ってから合流するかな。」
 
 「きみも自立すべきだよ。」
 
 「そうだね。だけど、家族の機嫌は損ねるよりは、とっておくほうが無難だ。大人は賢い選択をするものさ。」
 
そして、僕はベストのポケットの中から本物の弾丸をアレクセイに見せた。驚きと憧れの眼は、人間を死なす。感じ入るものは危険だろう。それはきみが望む前に、きみの心の中に潜入することに成功してしまうのだからね。
 
 「くれるの?」
 
 「やるよ。友達だろ。」
 
 「ありがとう!きみって危ないけどいい奴なんだね。」
 
 「たくさんは持っていないから、これはきみと僕との間の秘密だ。」
 
人間は壊すのが好きだろう。人は科学を以って宗教者を侮り、宗教を以って科学者を脅す、だがいつの時代も僕らは僕らだけを信じた。名前を借りる者、名前を蹴飛ばす者、そのどちらも、腐りかけの権威が纏っていた厳かさすら感じさせることはない。壊すことの美しさに魅入られているという点は、僕らも同じかもしれない。与えられ、掴みとり、ついには滅ぼす。この違和感にナイフを突き立てたことがあるか。出会い、求められるために人間は生まれ落ちるのだろう。僕たちだってそうだった。人間だった頃の記憶は今でも鮮明に覚えている。だがもうしばらく、僕たちの毎日について話そう。
 

 


3話 無垢
 
彼がしまっておいた銃の在り処は知っていた。僕らは物質的には多くを共有していたからね。感覚を呼び覚まして、お互いに何を見ているのかを知ろうとした。時計の中の歯車は、よく磨かれてはいなかったけれど、真鍮で綺麗な色をしていたろう。どこまで話したかな。チョコレートの上に、そのヌガーまで食べていいって?いらないな。無償の善意というのは、大人が子供を誘拐する場合にしか用いないものだからね。誰も知らないことは存在しないし、自分が知らないことは存在しない。だからといって、人間が刃を収めてくれるというわけじゃない。
 
 「それで、ドローンを見に行くの?」
 
 「約束したことは、守るさ。」
 
 「僕が代わりに行っちゃだめ?」
 
 「そうだな。昔を思い出せるのなら。」
 
 「じゃあ、脱いで。」
 
 「え?」
 
 「フーディだよ!パグのはそれ一枚しかない。」
 
 「後ろ向けよ。」
 
僕らはきっとあの道を通り過ぎた。ある怪我を癒そうと思って、そうしたんだ。人であることをやめた代わりに得た無垢が、うしなわれた火傷が、体の上に催される。そしてすっかり薄くなった後悔を飲み干した。いくぶん安らいで、しばらく彼と僕とは田舎にある別荘で過ごしたよ。山が近くて日が短いから、獲物が少なかった。そのことを除けば良い場所だった。でもやはり、ある時は狂うように時間に追われ、ある時は時計の針を抜いた。止められないものは、抜けばいい。僕たちが数えたかったものは時間じゃない。ここまで生きて見た星の数だ。それを眺めて思うんだ。ああ、よくやったものだね、って。だから少しだけ、もう少しだけここに留まろう。
 
 
 
 

4話 田舎
 
さして深くはない、だけれど人の訪れない山の麓の森に僕らのもう一つの家はある。復元ではなく、過去の再生を求める。人間もよくやるだろう、止めた時間を再生するって手はずを。きみの持っている電話にも、家族や恋人との時間が切り取られているだろ。僕らにとっては、こうして人間から離れて、しかし少しだけ近い位置で短い日の光さえ疎ましく思うことが、きみらにとっての再生っていうのと同じなんだ。人間が眠るとき、僕らは覚醒する。どうとでも理由は付けたよ。融通の利く学校しか選ばなかったからね。透き通った血をして何世紀もすると、どの家もわけありっていうのになるからさ、難しい言い訳は必要なかったんだよ。血統は呪いの歴史だ。それでもなお慕わしく、少なくとも、きみらは貴族が好きだろう。殺してしまうほどにはね。今はそれかい。便利になったものだね。昔は、きみの肩より広いレコーダーを人間は使っていたよ。もっとも、この心に焼き付くうしなわれた少女の声は、人の技術というものでも保存できはしないだろう。僕らの探し続けているものは、測りかねる心の距離の間にしか存在しない。かすかに触れる接点が、互いを焼き切るように録音は再生される。
 
 
 「この水、飲めるのかな?」
 
 「さあ。飲んでみたらわかるんじゃないか。」
 
 「きみはそうやって、いつもいじわるだ。きみと生活を始めたせいで、自分で着替えるはめになった。水差しの水だって、自分で汲んでおかなきゃならない。挙げていったらきりがないよ。どうして、落ち着いた先から移動するんだ。本当は、もう少し街にいたかった。」
 
 「ヒューゴ。じゃああのままきみは退屈して、他の人間たちがするように老い、妻を娶り子供でも作り、それと遠乗りにでもいく約束をしたかったのか。」
 
 「レニーは、ジンジャーブレッドに絵を描くのが好きだった。僕は、四角く焼くように命令して、それで家を建てたんだ。その中に、彼女が描いた僕らが住んだものだったろう。僕が言いたいのは、どうしてうしないながら生きていかなければならないのか、ってことだよ。」
 
  「今夜は人を呼ぶか。」
 
  「そうやって、きみは都合の悪いことからはすぐ逃げる。」
 
「じゃあきみと、めそめそ昔語りをして、慰めあっていれば報われるとでもいうのか。無責任はきみの方だ!」
 
「愛していないんだね、もう。」
 
 
愛のない年月を送ったという老夫婦の話は、よくあるだろう。そこにただいるというのも、愛の形だ。ヒューゴとレニーに関して、僕は中立ではない。彼の気持ちは分からない。ああ彼女の説明はしていなかった?レニーは僕たちが飼っていた人形だ。美しいブロンドの巻き毛にポーセリンの肌をした少女だ。血統は良くないが、それにしても本物のフランス人の子供だった。だけど、人形は人形だ。だから、僕は中立ではありえない。中立というのは、風向き次第ではきみの味方になりたいし、まずくなれば敵になりたいという態度だ。そして、信じれば裏切られ、裏切られれば信じようとし、何も学ばないのがほとんどの人間だろう。裏切りは嫌いだ。僕はヒューゴを信じようとした。だから、関係は80年続いた。退屈というのは、そのまま捨ておくのがいい。初めから何も持たない方が、生きて多くのものを得られる。特別でないものが、特別な生を望むから不幸になる。何も持たないなら、何も持たないなりの生き方をすべきだ。それが単純な幸福が約束されるきっかけになる。あるいは、ヒューゴは捨てるべきものを多く抱え過ぎていた。なのに、どれ一つとしてうしなうまいとして、清算を迫られたんだろう。
 
 
 


5話 悪魔
 
ある夜ヒューゴはひきつけを起こした。まるで体の中に悪魔を召喚されるように、彼は苦しんだ。僕は彼の汗を度々ぬぐって、冷やす工夫を探し回り、最後は室の下に残った僅かな氷で彼を癒そうとした。熱の力は危険だ。熱は僕らさえ壊す。不老だが、不死ではない。血は吸わないが、人間ではない。そうだね、あなたは間違いをした。いや、ここへ手引きをした人間が、か。レコーダーは止めずに回していなよ。もっと面白いものが見られるかもしれない。あなたの輪郭はまずくない。だが、ヒューゴの頬を伝う線には敵わない、何故なら彼は僕だからね。分かれては存在できないはずだった。うしなわれた軌跡、半身を分ける兄弟、彼は僕であり僕は彼であるがゆえにお互いの存在を義務付けられた。氷を持って彼のシャツを脱がせると、薄い胸の上をいくつもの雫が滑り落ちたんだ。
 
 「熱い。フェリクス、助けて。体が焼けるよ。」
 
 「女みたいに喚くな。」
 
 「女が喚いていいのなら、僕は女になるよ。」
 
 「それでどうする。」
 
 「飛べるかな。」
 
「女は、飛ばない。」
 
 「シャツは、白がいい。」
 
 「そうだな。汗が目に入る、閉じていろ。」
 
悪魔の少年を召喚したのは、人間の作る社会だったろう。彼や僕を恨むのはお門違いだ。呪われてもなお慕わしく、引きつけては突き放す。人間は、他人から見られるようにしか成長しない。そして、銃は、弾丸を撃ち尽くした後はあまりに無力だ。僕らは弾丸を打ち込む前に、成長を止めた。すべてが暗闇に逃げ込むと、人間たちは見えなくなった。それでも僕らは悪魔でさえなかった。初めから誰かが捨てていたからね。
 
 


 
6話 リベラシオン
 
きみは、人間であることに何の条件を課すか。それは、弱さだろう。人間は、あまりに弱い。そして、その脆さを隠そうともせず危うさの上を生きる。憐れであればあるほど、崇高だとでも言いたいかのように。だが、僕らは違う。気高く、美しく、恐れを知らない。これは、未だに、僕らが守り続けているルールだ。さもなければ、僕らは神ではなく人ではなく、遥か呪われた存在である前に姿を消す。
 
 「解放しろ!」
 
君は飛行機は好きかい?空は恐ろしいね、あの頃は船だった。船はいい、飛行機が落ちれば僕らは死ぬ。天高く、僕らは、最上の美しさに惹きつけられておかしくした。もっとも呪われて醜く薄汚い生き物のように自分たちを思っていた。僕らは僕らより上を眺め、ため息を吐いた。だけど、とても高いところでやっている話し合いに参加するには、招待状かもしくは相当する何かがなきゃだめさ。そうだな、これも記録していい。僕はあのとき、兄か弟かあるいは何の血のつながりもなかったであろう彼をうしなった。縄で吊るされたヒューゴの眼は大きく見開かれ、顔は赤く膨れ上がっていた。ヒューゴはどんな姿をしていただろう。思い出さなくなって久しい、なぜならあれからほどなくして、新しいヒューゴを得たからね。
 
 「解放してくれ!」
 
そうだ。この日も雪が降った。あのフランスの香りは思い返してなお、さらに美しい。アメリカというのは何もかもが騒がしくて心の休まる時がない。パリにあった父の組織の隠れ家で数週間を過ごすと、僕は息苦しくなった。他の子供に交じって、壊れたオルガンの前で歌を歌う気分ではなかったが、煙っぽい男たちに交じって酒の臭いを嗅がされるよりかは魅力的な選択肢に見えた。何事に関しても、妥協を加える時期は終わったように思えた。気高く、強く、決して後ろを振り返るな!敵は後ろにはいない。もしいるのならば、それは骸だ。生きた敵は、眼前にしかいないのだから、常に前方を捉え続けるべきだ。なのに、男たちは振り返ってばかりいた。父の死は、彼らに何らかの決定的な打撃を加えたようだったが、幼い僕には事情は分からなかった。



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