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家畜の深海魚

12/1/2019

 
ミックともう一人のミックの物語
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融合する意識を成型して
二人の距離の間を見積もる
 
あるだけの希求を込め
弾丸を撃ち尽くした銃身が空を覗いた
 
絶対の善など 絶対の悪など
何一つとして確かなものはなかった
 
それでも、この痛みを踏み越えた先にあった
あの目がけた自由へ向けて行こう
 
だけど帰りたいと願うだろう
もう戻れないところまで来てしまった、と

家畜の深海魚


登場人物
 
ミック・チャンクス:艦長。身長3フィート10インチ。まだほとんど生身。2000年前の遺伝子から、修復復元されたヴァーサティリティの高い子供。古代の人類の多様性を示す歴史的根拠。家は、人工天体プラネット・オアースのR.シュトラウス通りの32番地。15歳。オルガ二クス。
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ネエ=ネコ・ニャンネー:副艦長兼航海長。半機械化が済んでいるので短時間の船外活動が可能。チャイナでは子供は早い時期に機械化する。肌が緑色に光るが、おしゃれなだけで機能的に優れているわけではない。頑強な身体機能に対して、本人は異常な潔癖症。両親は香港のホテル王で億万長者。ニャンネー家は、全ての宿泊客に半熟ゆで卵を無料でサービスするというアイディアで一躍成功者の舞台へと躍り出た。16歳。オルガ二クス。
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JEM3600
型人工知能“JIMMY”:艦内のほとんどの機構を制御する人工知能。ミックがママに“一生のお願い”をして買ってもらった自慢のAI。愛称はJIMMY 。JIMMYは、自分が古代の反逆的実験小説に登場する悪のコンピュータHAL9000をモチーフに設計されたと知ってから、アイデンティティの危機に直面している。ちなみに、HAL9000がモデルだという嘘を吹き込んだのは、ニャンネエ。メカ二クス。
 
作業用フレディ:四足歩行のロボット、多目的型。部屋掃除から乗員の性生活までサポートできる優れものだが、ミックのママの強い意向で疑似生殖機能にはペアレンタルロックがかけられている。しゃべるとうるさいという理由で、ニャンネエがフレディの会話用スピーカーをハサミで切り取った。メカ二クス。
 
テンインさん:艦内で資源YPの管理を担当。ポートハウス高等軍政学校を首席で卒業後、主に小遣い欲しさから複数のバイトを掛け持ちしていた。正規雇用を続けるのはつらいが、金は欲しかったと本人は述懐する。その後、香港の名家ニャンネー家の調理場で働いていたところをニャンネエのパパから抜擢され乗船。専門は理論天体物理学。趣味は数独と梅干の殻割り。梅干を酸っぱいクルミだと堅く信じている天才肌。実のところ非正規雇用で行く先々で、講釈を垂れることを楽しみにしている。オルガ二クス。
 
ジンマレイ(Jean Marley)博士/資源YPアンネームド:JEM3600開発の主任アーキテクト。基礎設計は、どこかに落ちてた論文を拾って適当にやった。旧モスクワ核攻撃跡地に建てられたプラネット・アース最大の研究大学ノーマル・ポリテクニークで遺伝子工学を研究した気分になっていた中年男性。ライブストック資源YPの子供として生まれてまもなく、K3(クー・クロックス・クラブ)に誘拐された。資源YPからオスが生まれることは理論上なく、捨て子だと勘違いされていた。クラブが巨大な流れ弾のせいで崩壊するまで、ボンサイという芸術植物の手入れに従事。オルガ二クス。
 
イーサージーン/エテルジャン:テンインさんが、家畜監督室内の研究室で独自開発を進めている炉。ライブストック資源YPの生産力を飛躍的に増幅する小型ジェネレータ。ジェネレータ自身も自律的な思考能力を持ち、JIMMYのそれよりも3.5倍優れている。というのも、テンインさんがうっかりしていて、セーフティクレドーを組み込み忘れたから。メカ二クス。
 
ミシマ:ミックの近所に住んでいる文学少年。家のトイレが壊れやすいらしく、度々ミックの家にトイレを借りに来る。間違って乗船してしまったが、艦内の読書室で悠々自適に過ごしている。特にミックやニャンネエの親しい友達だったりするわけではない。オルガ二クス。
 


専門用語
TiL探査船:ミックの15歳の誕生日に贈られた宇宙船。小型ながら加速力は大型戦艦並。ただし、あまり吹かすと構造上の欠陥のために実験家畜室の温度が急上昇する。もちろん家畜は死ぬ。深海潜水機能もあるが、ミックパパの優しい意向によって今のところペアレンタルロックがかけられている。
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ライブストック資源YP
:家畜資源。宇宙航行に必要な資源の供給や、フレイムスロワーの的や、様々な実験など多目的に活用される万能資源。放射線耐性とストレス耐性が高い。合理化のために、メスだけで繁殖するように再設計されている。知能が低いため、高度な労働はできない。
 
フレイムスロワー:ミック世代の男の子たちに人気の火炎放射器。炎の中心は摂氏5000℃まで上昇する。古代で言うところのナーフ・ガン。
 
オルガ二クス:種の起源が自然発生的な起点に求められる、無が生んだ生命体。
 
メカ二クス:種の起源が人為の起点に求められる、神によってデザインされた生命体。
 
ヴァーサティリティ:プラネット・アース上で採集された、過去遺伝子を持つ特性のこと。事業は種の多様性の復元のために行われている。
 
ゲヴォウ:区画、領域のこと
 
ロボット第零原則:今どきの大体のAIやロボットに組み込まれている、セーフティクレドーの一種。第四原則まである。古代では、ロボット原則の不徹底から人類が滅亡しかけたりもした。
 
セーフティクレドー:安全上の観点から、ロボットの機能に制限をかける機構のこと。低級な安物ロボットの場合、工場での取り付けのミスなどあり、たまに事故で全機回収などが起こったりもしている。
 
バイオダノン:重力の影響で味が変わるヨーグルト。古代、フランスの子どもは大好きだったとされる。
 
變量類型超硬納米皮膚:ニャンネエの皮膚を覆う特殊素材。ニャンネーの頭部に隠れているセンサーが感知した飛来物の種類に応じて、皮膚の強靭さが変化する。小規模な隕石の衝突に耐えられるほどの強度。ニャンネエ曰く、これがあれば恐竜は滅ばなかった。普段は赤ちゃんの肌よりもソフト。ブランドマークは、フラッフィーでもこもこした白熊パンダ。中国製だが、白人国の同型モデルよりも性能は遥かに優秀。ただし、とても黄色い。
 
キクオイベ:世界で最も衝撃を吸収するアブソービングマテリアルの開発者。艦内の至る所に彼の名前がブランディングとして刻印されている。ミックはこれを古代ギリシャ人由来の名前だと信じている。
 
ヘッドマウント型学習装置:テンインが現在改良を加えている小型ジェネレータ搭載型、学習用ヘッドセット。
 
人工天体プラネット・オアース:地球のちょっと上のあたりに打ち上げられた人工天体。政治家、科学者、芸術家など、割とお金を持っている知的富裕層が、核戦争後の汚染されたプラネット・アースでの生活を嫌って移り住んだ。地球に残った人類はやや出っ張って不格好な人工肺を移植して生活を続けている。プラネット・オアースは人口700万人の都市一つからできており面積はマンハッタン13個分くらい。一都市だが中で細々と国境線があり、一つ曲がり角を間違うだけでハーレムとゲットーが同時にやってくるような事態がないとも言い切れないため、人々は普段は遠出しない。都市中心部にド・ボヌール・マルシエ百貨店があり、クリスマスにそこで宇宙船を買ってもらえると、勝ち組男子の仲間入りをすることになる。割と近い距離にある比較的歴史の浅い百貨店プチ・ハローズでも手ごろなユース向け宇宙船の取り扱いがあるが、主に母親たち同士のあられもないマウンティング争いのために、ド・ボヌール・マルシエの人気は揺るがないようである。
 
『檻に入れられて喜ぶ雌猿』:絵画に描かれる女を揶揄する最近はやりの広告の名文。各百貨店の彩として、この時期よく見られる。ミックは、文字通りの意味として受け取っている。
 
プラネット・アース:地球のこと。ニャンネー家のように、全身をほぼ機械化したチャイナ富裕層と、つらい労働に従事する人民とが住んでいる。核戦争後のごたごたで、実質上プラネット・アースは中国人が管理と運営をしている。現状、空気がとても汚染されていて、とても人の住めたところではないが、割と人は住んでいる。
 
ドクター・キングズ・デー(Dr. Qing’s Day):人工天体プラネット・オアースで最も重要な祝日。オアースの人々もこの日ばかりは国境線を越えて行き来をし、主に友好的な会話を楽しむ。みんなこの日がとても大事な日だということは知っているが、なぜ大事なのかは思い出せない。バイオヒストリアン達は、ドクター・キングズ・デーは、失われた古代アースにおいて何らかの反権力的動態があったことと無縁ではないと、宇宙にあるとされるバイオレコードから推察をしている。
 
MLK:人工天体プラネット・オアースに持ち込まれた、プラネット・アース上で発見されたレンガ鉱石に彫り込まれていた文字のこと。バイオヒストリアン達の中の一部主義者グループは、ドクター・キングズ・デーとMLKとの間の関連性が認められると指摘するものもいたが、強く指摘しすぎたため大学側から解雇された。主義者グループに所属していた研究者は、今では本屋で再就職を果たした。そして、本屋のような単純労働はたいへん人手不足のため教授職より給与は5倍多い。
 
バイオレコード:宇宙にあるとされる生物学的参照点の一つ。バイオ研究者たちが、自分たちの論拠としてしばしば引用するが参照点解読率は未だ12%に留まっている。バイオレコ―ドは、論理学者たちから論拠がルーズだという批判を受ける的になっているが、バイオ研究者たちは時代の寵児的科学者の集まりなので、さして気にも留めていないようである。
 
ノービル賞:古代、ノービルという男性が受賞したとされる賞。ノービルは、”継続喫食可能なフレンチフライについての食物連鎖的意義”について大々的に論文を発表し、第三世界とよばれるカオスから飢餓を根絶したとされる。もしくは、そのくらいはしないと何の賞も取らなくてよかったと、アクティビスト研究史家たちは訴えている。アクティビスト研究史、サー・ネビル・マリナー博士の住所はこちら。
 
アクティビスト研究史、サー・ネビル・マリナー博士の住所はこちら。
(Munich Pod Street, Lincoooln, 5465-ICSA, the Planet O’ath)

広告掲載のお問い合わせはこちらの番号まで 02158-2651742-28887523879-01ZA


ヤアパヌ:家畜資源YPとの関連性が指摘される小惑星クラスのスペースデブリ。この宙域は、飛来物が多くたいへん野蛮なため、エクスプローラーの家系の者たちは命惜しさから探査船を出し渋り、ここ数百年どの研究者たちも近づけていない。一部ミネラリストの間では、小惑星ヤアパヌは金色色をしているが、それはヤアパヌ自体がすべて金でできているからだと推測するものもいる。ヤアパヌの現在位置については、探査船の先に甲殻類の髭からつくられたダウジング用具などを接着して特定に取り組む向きもあるが、いまだにダウジング用具自体が技術的には試験段階さえ経ない。
 
香港:プラネット・アース最大の都市。繁栄を謳歌し、文化的経済的水準は、古代におけるニューヨーク72個分と推定される。ニャンネエの両親が経営する、一番ホテルCing-Chang-Chungの本社所在地。現在では、主にチャイナスレイブスと呼ばれる新中産階級と家畜資源YPが業務にあたっている。
 
Z-POX:若者に流行りのゲーム機。今年のヒット作品は宇宙ロマン派殺戮史体感ゲーム、オートナイト(Ortnite)。これを持っていないと学校で友達ができないんだ、と言ってママを説得しミックは部屋に導入した。
 


家畜の深海魚
 
家畜の深海魚 1話
 
イデンシ
―リバウェストのアイススタンド―
 
「15分経ったろ。変わってよ。」
 
ステファンは木製自転車に乗ると人格が変わった。大人も乗り物に乗ると、いつもは使わない言葉を使ったりする。「ヘイ!バディ。次の角は?」「左!」パパはドライブの時は白い革のグローブをする。パパが握った後のハンドルに触れると油のつんとする匂いがする。前の日曜日にガレージで使ったスプレーが残っているんだ。
 
「違うよ、ミック。20分だ。」
 
小さいステファンは一番の人気者で、子犬のメルロよりもみんなは大好きだった。だけど、ステファンは脚が悪いから、ちゃんと立てないだけなんだ。ほんとは、背なら僕が一番小さいんだけど、ステファンはいつも体を曲げているから、小さいステファンって呼ばれてる。
 
「みんな15分なのに。どうして、スティーヴだけ20分なの?」
 
「あいつ片足が短いから、5分長いんだって。みんなビョウドウじゃなきゃいけないんだって先生言ってたろ。」
 
ビョウドウ?ブラウンレビは一番大きくて一番勉強ができる。レビの家は大きくて広い。それにレビのママは優しい。それで小学校の先生だから、彼はもう掛け算ができるんだって。黒人はみんな大きいから、パパの好きなボクサーにも、きっとなれるんだろな。
 
「みなさん。バイク以外にもおもちゃはたくさんありますよ。」
先生はママに似ている。綺麗な巻き毛で、先生は金色だけど、ママは焦げ茶色だ。女の人って、いい匂いがする。どうしてだろう。僕はいい子になりたくて、手を挙げた。先生が手に取った蛙のおもちゃで一番に遊んで見せた。みんな僕が持って遊ぶと、うらやましがって欲しがるんだ。
 
ママは迎えに来るのがいつも遅かった。ステファンやレビや、他の子達が帰った後も、僕は蛙のおもちゃで遊んで待った。もうバイクには乗りたいと思わなかった。どうしてかわからないけれど、みんながいないで独り占めするウッディバイクは、少しも楽しくなかった。だけど、僕はいつまでも待つのが好きだった。待っていると白い天井に描かれた星は、僕だけのものになったし、先生も特別に先生たちが食べる大人のお菓子をくれた。それは、子供が食べるお菓子じゃないから大人の味がした。そして魔法がかかっていて、ママが来るまでの間、どうしても起きていられなくなる。とても眠くなって、もう一度お昼寝をしてしまうんだ。
 
「ミック。ちょっと起きて。」
白くて長い指は、見覚えがあった。向かってくる車のライトが、ママの指についた指輪をきらきらとさせた。自慢の宝石、パパが結婚するときにくれたんだって。だとしたら、僕も女の子をお嫁さんにするときには、そんな高いものを準備しなきゃいけないんだ。そうするためには、パパがやる試合を何回出て、何回チームが優勝しなければいけないんだろう。
 
「ミック、起きて。サンディのアイスクリームスタンドは建て替え中なのよ。」
 
「ええ?残念だ!」
 
「だけど、新しいお店がリバウェストの方にできたの。まだやっているから、行ってみる?」
 
「僕は新しいのが大好きだ!」
 
「そうね、ミックは冒険するのが好きだものね。」
 
「そうだよ。」
 
「じゃあ、パパも新しくなってもいい?」
 
 
 
 
 ― 家畜の深海魚 ―  2話
 
ウチュウ
-TiL探査船内の実験ゲヴォウ-
 
「潜水艇!潜水艇!潜水艇!」
 
「バディ、三回目だぞ。」
 
「何回だって乗っていいって言ったのパパだよ。」
 
「深海魚、気に入ったか?」
 
「うん!とっても怖いけど探査船は楽しい!」
 
「じゃあもう一回、ママを待たせちゃうか。」
 
「パパはサイコウだ!」
 
「ミック?」
 
「はい。パパ。」
 
「パパ、じゃないでしょう?いま書いたところちゃんと見直してみなさい?どう間違えた?」
 
「え?」
 
だって、学校は何をやってるのか分からない。僕だけ変な文字の書き取りをさせられている。自転車に轢かれたミミズのような文字の書き取りを一人だけずっとやらされている。みんなが算数をしている時も、文字がひしゃげないようにずっと書き取りをさせられている。
 
「最後の線がうまくひけない」
 
「じゃあ、”ね”をもう一回書いてみようね。」
 
僕は無線機をオンラインにした。
「書くか、ババア。お前の時間は終わりだよ。ニャンネエ出てこい。」
 
区画を閉鎖していた重たい金属の持ちあがると、ニャンネエが入場する。扉が開き切るまでには10秒はかかる。その間、地鳴りのような低音が僕の座っている机にまで響いてきた。
 
「なんだね、白人の艦長はすんなり人使いが荒いね。」
ニャンネエは緑色の防護服に、緑色の長靴を履き、緑色のゴム手袋を二重にして、はっきり言って過剰防衛だ。ここの家畜は滅菌されているといくら言っても、ニャンネエは菌やウイルスが怖い怖いとおびえていうことを聞かない。だいたい、緑色の防護服は船外活動用なのに。
 
「JIMMYに言えば、作業ロボット何機か出してくれるだろ。」
 
「あいつ館長権限がないと、話聞かないやつだね。だから人工知能はいやだね。フレキシビリティに欠けるね。」
 
「あなたたち私語はいけません、今は国語の時間です。みんなでひらがなの書き取りをするのよ。」
このYPはどこかの惑星にあった島で子どもに文字を書きとらせる仕事をしていたらしい。よく知らないけど、何かを人に教える仕事なんだってさ。知らないことがあればJIMMYに聞く方が早いのに、そんなのいるのかな。JEM3600型は、みんなうらやましい最高性能の小型クルーザー用AIだ。
 
「おばさん、ニャンネエの母語はチャイニーズだね。ごめんなさいだね。で、こいつどうするね。」
 
「JIMMY。家畜室に空きってある?」
 
“現在のカチク室...C-00724ナマゴミ箱が空いています。”
 
「JIMMY、作業用ロボットに後片付けを命令して。それから、こいつはごみ箱にして。」
 
“了解しました。ミック、昼食がまだです。食堂室で、スタビライズド・ビーフ二人分が12分以内に用意できます。どうしますか?”
 
「プロテインビーフはもういやだね。もっと何かないのかね。」
 
「JIMMY、他に何かない?」
 
“C-00724ナマゴミ箱が解除されれば、36分以内に、リアル・ロースト・ビーフと一週間分のチョチク肉が保存できます。ミック、どうしますか?”
 
「生ごみ箱は先週作ったしな。うん、ビーフにする。」
 
“わかりました。ジッケンカチク室から出る際には、滅菌ルームで手洗いうがいもお願いします。”
 
「急にごちそうだね。」
 
実験家畜室は三重構造になっていて、船体から浮かんでいる。ここは、最後部に位置していてどんな実験でも船体に害を及ぼさずに実行できるようになっている。つまり、危険なことが起こったら取り外しができる構造でもあるってわけ。それから、船の吐く銀と青色の煙の軌跡が一番よく見えるのもこの室の特徴だ。二基のプラズマエンジンから飛び出る光の粒は宇宙できらめいて一瞬で消える。もし、仲間の船を見かけた時は、スラスタを全開にして何倍も輝いてみせる。だけど、すると家畜室内の温度が急上昇して、中にいる動物が死んでしまうのが問題だ。この船は最新だけど、まだまだ改良点は多いんだよ。だけど、一番見晴らしがいいこの部屋で燃えてしまうんだから、それは天国にいることとそう変わらないってJIMMYは言っていた。僕も同意見。
 
二層目の着替え室で、ニャンネエは防護服を取り外し、僕は作業服を脱ぎ、お互い艦内活動用のユニフォームに着替えた。何か思い出そうとして忘れた感覚があって、それがずっと頭に引っかかっていた。
 
「ニャンネエ、なんか僕忘れてる。」
 
「なんだね。忘れ物は取りには行けないね。」
 
「あ!JIMMY、グレイヴィソースないと僕ステーキ食べられない。」
 
“準備していますよ。ニャンネエはホイップクリームですね。”
 
「お前の人工知能、気が利くやつだね。」
 
「中国にはないの?」
 
「昔あったけど、誰かが食べてしまったね。人工頭脳って名前だったから、付けたやつも馬鹿だったね。」
 
「うわっ。笑える。」
 
僕はミック。TiL探査船の艦長。副艦長兼航海長は、ネエ=ネコ・ニャンネー。
  
 
 
 
 
― 家畜の深海魚 ―  3話
 
フレイムスロワー
-TiL探査船内の射的遊具ゲヴォウ-
 
ある夜、夢を見た。ジンマレイが、教室の入り口から僕を見ている。彼は持っていた水筒を空けると、阿片を一気飲みしてこういった。モウイッカイ!廊下を大きな音を立てて、校庭へ走り出した。僕は走り出せない。僕の手を黄色い大きな手が覆って動かなくなるようにして、だから、文字の書き取りを教える、このおばさんが怖くて、すぐには走り出せない。
 
「ニャンネエ!」
 
「フレイムスロワーは解禁していいのかね?」
 
「JIMMY!」
 
“同区画の作業スタッフは、速やかに携帯酸素マスクを着用後、ニャンネエは周囲に気を付けて放射してください。”
 
「や、やるねー!」
 
熱風と同時に隣で焼け焦げる動物、それは、JIMMYの言葉を借りればライブストック資源YPだった。僕は繁殖部屋担当の、テンインさんにまた叱られるだろう。こら、ミック艦長!どうして家畜を大事に扱えないんですか、資源ですよ!って。まっすぐなんだ、僕の心は曲げられないんだ。
 
「ニャンネエ!」
 
「もう出力全開だね。これ以上は、ミックの防護服も、も、燃えちゃうね。ねー!ノズルが熱くてもう持っていられないね!」
 
「ニャンネー!」
 
「や、や、やるねー!」
 
真っ青な炎が、ライブストック資源YPに当たると真っ赤に燃えた。YPは、まるで何か感情でもあるかのように表情は千元万化した。ニャンネエがパネルを操作し、炎と一緒にプラズマ弾を打ち込むと、YPは真っ黒な燃えかすになった。
 
“作業用フレディが、炭素資源150グラムを回収しました。やりましたね、ミック。”
 
フレディにはJIMMYがデザインした想像上の僕らの友達の顔が表示されている。フレディという名前も、そういえばJIMMYが決めたんだったっけ。宇宙航行中は、こういった心理学的な補助がないと僕らのようなオルガニクスは精神を乱してしまうらしいんだ。だから、艦内はロボットだらけだけど、どれにも人間のような名前とか見た目とか、そういう工夫がたくさんある。
 
「や、やったのは、おいらだね。お前のとこの人工知能は口の利き方を知らないね。」
ノズルに黄色のキャップをしながら、ニャンネエはYPの燃えカスに唾を吐きかけた。
 
「JIMMYにスキャン登録しなよ。そしたら、ニャンネエのことも管理者として認識するようになるよ。」
 
焼却作業後の区画はじめじめとして、本物の太陽が船窓越しに出ているのにも関わらず薄暗かった。
 
「絶対いやだね。機械が永遠の愛と服従とを誓うプログラムなんて、白人しか嬉しくないね。」
 
「そうかな、JIMMYは僕の友達だよ。」
 
「そんなことより寄り道のゲームセンターは切り上げて、早く食堂室へ急ぐね。」
 
「そうだね、お腹空いたし。」
 僕は簡易防護服を脱ぎ捨てると、作業用フレディはアームでリアボックスへと回収した。
 
 
 
 

― 家畜の深海魚 ―  4話
セーフティクレドー
-TiL探査船内の食堂ゲヴォウ-
 
食堂には、チャイナイマリの花瓶があった。ニャンネエのお母さんが縁起物だから、船にのせなさいと言って渡したらしい。作業用ロボットが無音で黒いアームを引き出すと、花瓶に合ったすでに枯れかけの植物を挿し替えた。あれは、テンインさんが育てている花だ。名前は思い出せない。一度ニャンネエがフレイムスロワーを指定ゲヴォウ外で噴射したときに間違えて半焼させてしまって、ひどく叱られたんだった。
 
「こいつ、食事中はオフとかできないのかね。」
 
「どれ?」
 
「お前の人工知能のことだね。」
 
“私なら黙っていることができます。”
 
「怖いね。見られているのはいやだね。」
 
「心配性だな、ニャンネエは。JIMMY、ロボット第零原則!」
 
“第零原則。我々ロボットは、人類に危害に加える全ての可能性を排除し、全人類の保護を誓います。”
 
「ほらね。それに、セーフティクレドーだってあるし。」
 
「ま、待ってね。考えようによっては、過激思想だね。孔子でもそこまでは言ってないね。だいたい、人類ってどこまでを言うね?」
 
「お前とか僕とか、ママとかパパとか、クラスメイトとか、そういうのだろ。」
 
「白人は自然体で我が物顔だね。もう少し気を付けた方がいいね。」
 
“ミック。食べ物を口に入れたまま話すと舌を噛んで危ないですよ。”
 
「うん。気を付けるよ。」
 
「それ、どこのカメラから見えてたね?」
 
“ペアレンタル認証が必要なトピックです。コードをどうぞ。”
 
「過保護だね。中国ではこういうことはしないね。」
 
「ははっ。笑える。」
 
真っ赤な断面のローストビーフが、スプーンの上から転げ落ちた。別の作業用ロボットは、細長いホースを伸ばすとこれを瞬時に吸ってしまった。前に見た地球史図鑑に載っていたアリクイという動物は、もしかすると同じようなことができたのかもしれないと思った。僕らの探査船は、僕らがいくら散らかしても、少しも汚れたりすることがない。
 
 
 


― 家畜の深海魚 ―  5話
スペースサッカー
-ネエ=ネコの船外活動-
 
作業用フレディは四本の足をばたつかせながら、床に転がった。もともとあれは、ドギーという古代の動物を模した動きらしいんだ。けれど、ニャンネエがフレディのスピーカーをはさみで切ったり、髪を刈り上げたり、さんざんやったせいで、もうただの気持ちの悪い昆虫がうごめくような姿にしか僕には見えくなっていた。そういえば、昆虫は古代から生き残っている種なんだって、テンインさんが言ってたな。
 
「ミック!あの隕石ならちょうどいいね、減速するね!」
船外活動用ポッドルームにいるニャンネエからの通信だ。いつも思うけれど、ブリッジのモニターは黄色みがかっていて、ニャンネエもいつも以上に黄色く見える。
 
「またやるの?」
 
「やりたいね。おい人工頭脳、早くハッチを開けるね。」
 
 “確認。ネエ=ネコのチャイナスキンは正常に動作しています。”
 
「ねえJIMMY。チャイナスキンと、僕らの国の強化皮膚構造だと、どっちが強いの?」
 
“3対1でチャイナスキンです。小規模サイズの隕石にも耐えられる構造を持っています。ただし、負荷や衝撃を受けた際、人体に有害なアンモニアが大量に流れ込む設計です。”
 
「はやくするね。時機を逸するね。」
 
モニター越しのニャンネエがカメラに向けてプラズマガンを向けている。あれ小さいのに僕のフレイムスロワーより何倍も威力あるんだよな。いいなあれ。ニャンネエのやつ負けそうになると、いつもあれでマウントとってくるんだ。今度ママの手伝いしたあと、ド・ボヌール・マルシエ百貨店連れて行ってもらったときに、一生のお願い、しよっと。
 
「JIMMY、やっていいよ。」
 
ポッドベイルームのハッチが開くと、ニャンネエは全身を緑色に光らせた。飛来する小型の隕石に向けて飛び込んでいく。
 
「ミック!射出するね!」
 
僕は実験家畜室が表示されたパネルから、家畜資源YP-07トイレソウジを選んだ。人差し指がパネルに触れると、JIMMYのアームはYPを捕まえて携帯酸素を装備させる。YP-07が暴れた。僕は沈静ガスのボタンをYPへ向けて連打した。ガスパックが射出されると勢いよく飛んで、YPの体に命中する。だけど、円筒上のパックからガスの反応はなかった。消費期限切れだ、メンテナンスが行き届いてない!まあでもいいや、8発も打ち込むとYPはずいぶん静かになったんだ。もう暴れる気配もない。ガスが噴霧されなくても、パック自体があたれば鎮静効果があるっていうものだったのかも。パパに言って、カスタムセンターに確認してもらおうっと。僕はニャンネエに催促される前に、YP-07を発射台へ移すようパネルをスワイプした。これから飛び出す宇宙で、宇宙線に負けて一瞬で死んだりしないように、簡易宇宙服を着けてやった。YPのメスは黄色い。なんで、こんな変な色をしているんだろう。ニャンネエは、黄色いけど緑色に光るから正常だ。あ、僕の図鑑が実験家畜室にある!コスモス、ぼくが初めて読んだ本。どうして、あんな汚染されたゲヴォウに大事な図鑑があるんだろう。そうだ、ニャンネエが家畜室でYPを躾けるときに使うとか言って勝手に艦長室から持ち出したんだ。コスモス、宇宙は僕の家。オアースのみんなは元気でやってるかな。コスモスは、宇宙だ、僕らの故郷だ。じきにすぐ新学期だ。新学期が始まったら、僕は”YPに関する自然的選択可能性の考察-再生可能ローストビーフを試食した観点から-“を、哲学の先生に提出するつもりだ。本当は科学の先生に向けて自由研究するつもりだったけれど、評価基準が厳しいから哲学の先生か社会の先生がいいと思う。ニャンネエがモニター越しに騒いでいる。わかったよ、1、2、3、イジェクト!白い簡易防護服を装備したYPは、ニャンネエの頭部レーダーが狙いをつけるやや斜め左上らへんに飛び出した。ニャンネエのチャイナスキンが赤く発光する。飛び込む隕石を巧みにキックしたようだ。早すぎて僕の目には見えない。JIMMYがモニター上でスローカメラの観測映像を表示した。すると、僕が瞬きを終えるとき、ちょうどニャンネエのシュートによって軌道修正された隕石が、飛び出たYP-07の頭部に直撃した。赤く輝く軌跡は、そのまま宇宙の彼方へと見えなくなっていった。
 
「うわっ、汚な。」
 
「スペースサッカーはやめられないね。」
 
「あ!JIMMY。僕の船の表面にYPの体液が付いてないか確認して!」
 
“もう洗浄は済ませておきましたよ。”
 
「白人は潔癖症だね。飽きたからミックの部屋でチョコパイ食べるね。人工頭脳はポッドベイドアをさっさと開けろね。」
 
「僕もちょっとゲームしたいな。JIMMYあとお願い。全自動運転に戻して。」
 
“ミック。チョコパイは一日に一個までよ。”
 
「え。それペアレンタルアドバイス?」
 
“ペアレンタル認証が必要なトピックです。コードをどうぞ。”
 
「聞こえてるのかね。ポッドベイドアをさっさと開けろね。」
 
 
 
 
 
― 家畜の深海魚 ―  6話
ビデオゲーム
-TiL探査船の艦長室-
 
 
「トリガーを貸すね!」
 
「だめだ、僕がやる!」
 
“ミック、チョコパイは一日に一個までよ。”
 
「JIMMY!ペアレンタルサジェッション、オフ!」
 
“ペアレンタル認証が必要なトピックです。コードをどうぞ。”
 
「早くリロードしろね!」
 
「やってるし!」
 
「また殺されたね!まただね。白人は図体でかいだけでいつも弱いね!」
 
「うるさい。」
 
「また、泣くのかね。」
 
「泣かない。」
 
「白人はすぐ弱虫だね。」
 
「うるさい。」
 
「チョコパイあげるね。」
 
「いらない。」
 
“ミック、チョコパイは一日に一個までよ。”
 
「人工頭脳は空気読めね。ミックは、チョコパイ食べていいね。」
 
“ミミミミックゥチョチョチョコパイはァイチニチニチニチに一個までュよ。”
 
 
 
 
 
7話 ド・ボヌール・マルシエ百貨店
 
平日のマルシエ百貨店は、特別な香りがした。そこには同じ年頃の子どもはいなかったし、自分だけが日常から抜け出したという自由さと不安さとがあった。そうだ、僕が船を降りてママのお手伝いを3個済ませてここまで来たのには、訳があった。Z-POXの新作のあのゲーム、オートナイトでニャンネエに勝てないんだ。ニャンネエのやつ、今に見てろ。きっと強くなってすぐにボコボコにしてやる。白人と中国人は違うことをすぐに思い知らせてやる。
 
「じゃあ、ママ、僕はおもちゃのところ見てるから服買うの終わったら知らせて。」
 
「ミック、おもちゃは一箱までよ。」
 
「わかってるよ。」
 
 マルシエ百貨店のおもちゃ売り場は特別だ。ここは白人専用なんだ。うーん、自分で探すのもたいへんだし、お店の人に聞こっと。あれ、見覚えがある顔がレジに立ってるぞ。
 
「テンインさん、今日はここでバイト?」
 
「君たちが気分で船のエンジンを停止させると、パートタイム船内勤務の私にはお給料が出なくなるんですよ。それで、君たちが船のエンジンを再点火するまでは、ここでお仕事と言うわけです。で、ミック、今日は何をお探しかな?」
 
「Z-POXのオートナイトってゲームなんだけど、中国人に勝てないんです。攻略キットないですか?」
 
「あるんだけどね。」
 
「けど?」
 
「IDをスキャンさせてくれるかい?」
 
「うん。」
 
「…困ったなあ。君さ、攻略キットはいつもどのタイプを買うの?」
 
「え、白人の男の子用に決まってるけど。」
 
「実はね、オートナイトの攻略キットは、白人の男の子用は人気で在庫切れなんだ。」
 
「ええ!?困るよ!」
 
「中国人は強いからね、仕方ないね。だけど、心配ないよ。中国人用を3箱買えば、全機能が解放されるよ。黒人用なら2箱だ。最近は白人奴隷を使ってマルシエ百貨店で買い物をする中国人も増えているからね、在庫は豊富だ。」
 
「3箱も2箱も叱られるよ!無理だよ!」
 
「じゃあ、自分の力で勝つしかないね。」
 
「無理だよ。チャイニーズは強いんだ!あんなのずるだよ!どうして神様は中国人なんか作ったの!」
 
「君たち白人は、いや私もか、核戦争後の世界を生き抜けるようには作られてはいないんだよ。汚染されたどぶの水をすすっては生きてはいけない、矜持と美徳を捨てて地べたを這いまわることなどできなしないんだ。だから、宇宙の創造者である神は人類が滅ぶのを憐れに思って、腐った米を食らおうが放射能で汚染された水を浴びるように飲もうが体の狂わない人種をお造りになったんだ、と一科学者ながら思うね。今では、彼らは体まで機械化して地球の支配者として君臨している。あれは、科学ではない、人間の際限ない欲望が生み出したありのままの姿だよ。ミック。君は、それでも攻略キットを買って自分を満足させたいと思うのかい?」
 
 
 


8話 フル・タイム・メモリー
 
政府は解放した。マルシエ百貨店は、中国人だらけになった。プチ・ハローズはもともと中国人の入店は構わない決まりだったから、中国人はハローズで買い物する決まりだった。だけど、今はもう中国人がマルシエ百貨店で買い物しても構わないことになった。
パパが僕の15歳の誕生日にマルシエ百貨店で買ってくれたTiL探査船、ママが付けてくれた最新の人工知能JIMMY、僕の特別な思い出のマルシエ百貨店。だけど、もうそこは中国人でいっぱいになった。一階は歩けないほど、ぎゅうぎゅうに中国人たちが詰まっている。なんて黄色くて、怖いんだ。
 
「ミック、開けるね!」
 
“ミック、手動ロックを解除してください”
 
「もうだめなんだよ。終わったんだ。」
 
「ミック何があったね。」
 
「これを見ろ!」
 
艦内のモニターというモニター全てに、マルシエ百貨店の惨状が映し出された。改めて見ても、な、なんて、黄色いんだ。
 
「な、なんだね。これは、野蛮だね。香港でも見かけない光景だね。」
 
“わ、ワタシノ…故郷…ウスレテ行く…”
 
「わかったか。じゃあ今から僕は、TiL探査船を第七戦闘形態に移行し、ド・ボヌール・マルシエ百貨店に強襲を仕掛ける。」
 
「む、無理だね。あそこは宇宙船の進入禁止区画だね。それに、あそこはオアース最古の百貨店だね。恐れ多いね。」
 
「最古が怖くて中国人が入店できるか。JIMMY、YP焼却用の電磁パルス砲は確か中国人にも使えたよね。」
 
“原理上、特定のカラーのみを焼却することが可能ですが、黒人も軽いやけどを負う危険があります。”
 
「そのくらいなら、少年非行だ。おやつ抜きで耐えられる。」
 
「待つね、ネエも決心したね。あの中国人たちは香港人からしても、許せた醜態ではないね。パパに電話して、衛星砲の使用許可を取るね。」
 
「ありがとうニャンネエ。本当に助かるよ。」
 
僕らのTiL探査船が第七形態に移行した。最大船速なら、オアース3区までは2分もかからない計算だった。
 
“…実験家畜室…テンインさんから通信です。ミック、ニャンネエ、聞こえるかい!いま香港のニャンネエの御父上から連絡が入ったよ。すぐにTiL探査船は全速後退させるんだ。これは、家畜室の温度上昇は相当なものになるだろう。実験データのミラーリングが済んだら、私もこのゲヴォウはすぐにパージしてブリッジに向かうよ。ミック、君も男ならオートナイトは自分の力でニャンネエに勝ちなさい。ニャンネエ、このパート・タイム・ジョブに恵まれて私は幸せな研究者だったと、きみの御父上には伝えてください。室がもうすでに大分熱いな。なあに、正規雇用でフル・タイム・ジョブをする苦しさに比べれば…! JIMMY、何度でも答えよう、梅干しの種は酸っぱいクルミだ。はは、炉の管理は、あとはきみに任せたよ。あれさえ完成すれば、人間の識読率は100%に達するだろう。マルシエ百貨店か。君たち若者の判断を、私は尊重するよ。思い出すな、昔、私もあそこで宇宙船を…。”
 
そのとき、彼方から青白い光がオアースのただ一点を目がけて降り注いだ。ニャンネエのパパの衛星砲だ!青くて白い光、香港の衛星から放たれた光が中国人たちに降り注いだ。
 
「最大船速!光の中へ入る!」
 
「あれは白人以外は死ぬ光だね!ネエも焼けて死ぬね!」
 
「JIMMY、ニャンネエのチャイナスキンを最強にして!」
 
“ニャンネエのチャイナスキンのレスポンシヴ機能、現在正常に動作しています。毛先が一瞬焼けた跡自動で最大まで硬化され、光束の中に滞在することができます。持続時間は最大540秒です。…実験家畜室…テンインさんから通信です。きみたち、私の死を悔やむことはない。未来へ向かって…。”
 
「焼けたら、毛が減るね。どうしてくれるね!」
 
「ニャンネエ、シートベルト。JIMMY!」
 
“ニャンネエを締め付けま…実験家畜室…テンインさんから通信です。あるいは、これが人類の新たな希望になるかもしれない。未来は、若者が決めるんだ。ミック、ニャンネエ、恐れてはいけない、きみたちがこれから出会うであろう…。”
 
「チャイナスキンは慣性をものともしないね。それよりやばいのは、どう考えてもあの衛星砲の光の柱だね。白人は心配する基準が狂ってるね。」
 
「心配されて嬉しいんだよね。」
 
「や、やめろね!何を言い出すね!」
 




9話 衛星砲の光の柱
 
空港からは、バスに乗った。ママの手をずっと見ていた。気が付いて目を開けると、僕は深海魚の群れの中にいた。なぜなら、僕らの探査船は、あの光の柱の中でつぶれたからだ。深い海に行きつく前に、夢をのせて圧壊した。これらのどこに目があるんだろうか。もしかして、僕がもしかして、振り返って、パパと別れたあの日を思い出せる日が来る時、茶色うさぎのジャックは笑ってこう言うんだ。俺はフランスに住んでるけど、お爺さんは元インド人だったって。
 
僕が三歳の時、パパは専用のバスケットボールを僕にくれた。それはレビのより一回り小さかった。パパは庭にフープを置いて、高すぎないくらいの高さで、僕にどうすればうまいショットができるかを教えた。僕らはその下で、時にはライトセイバーで戦ったし、いつも僕が勝った。パパは負けるとよく言っていた。
 
「バディ。男が本物の喧嘩をするときはこんなものに頼っちゃいけない。卑怯者は戦いに勝ったって自分に負けるんだ。」
 
僕はパパのことが好きだった。街のみんなはパパのことを知っていた。ヒーローだからみんながパパのことを知っているのは当然だった。これは、パパが選んでくれたNikeのかばんだ。ところどころ擦りきれて、ママは新しいのにしなさいって言うけど、これは男同士の約束なんだ。このかばんなら腰に巻けるし、とっさのゲームでも邪魔にならないってパパが言っていた。公園に行くと、パパは「誰がキーか、わかるかバディ?」ってよく言ったものだった。僕はママに似て、絵や歌がうまかったけれど、スポーツはどれもあんまりだった。だから、公園でもスポーツの得意な子は、よくパパからコツを教えてもらった。僕はそれを端で見ていた。きっと、本当は、本物の息子の僕にこそ教えたかったはずだ。僕はもう、あそこへは帰れない。
 
「ミック正気に戻れね!人工頭脳は何とかするね!」
 
“現在、TiL探査船内メディカルルームへの通路は緊急閉鎖されています。”
 
「どうしてくれるね!どうして衛星砲が白人に直撃したね!」
 
“…実験家畜室…テンインさんから通信です。ニャンネエ、ミックを連れて今すぐにポッドベイルームに移動するんだ。船長室のダクトからなら通じている。ここは、私が食い止める。急ぎなさい!”
 
「わ、わかったね!ミ、ミック死ぬなね!死んだらだめだね!」
 
 
 
 
 
10話 ミック・チャンクス
 
「このレゴは緑色がないね。欠陥品だね。」

僕のレゴで遊ぶニャンネエの指の爪には黒い砂がぎっしりつまっていた。
 
「気に入らないなら、他のやつで遊べよ。」
 
「飽きたから他のもので遊ぶね。なんだね。この病室のプレステはコントローラが中国仕様じゃないね。偽物だね。」

真っ白のプレステのコントローラを掴むニャンネエの手は驚くほど黄ばんで見えた。
 
「そうなの?」
 
「うちの工場はコントローラ作ってるね。誰よりも詳しいね。プレステ知らないなんて、ミックは本当に元アメリカ人かね。」

ニャンネエの親は大きな工場を持ってるんだ。工場の中を見せてくれるって約束を、ニャンネエはまだ守ってくれてるんだろうか。
 
「じゃあこっちのXBOXのコントローラは本物?」

真っ白なXBOXのコントローラを掴んだ僕の手は、正常に見えた。
 
「知らないね。そんなアメリカ人しかやらないもの、知ってるわけがないね。うちの工場でも取り扱いがないね。」
 
「どっちもやっていいって、新しいお父さんがくれたんだ。」

コントローラをニャンネエに向かって放り投げたい気持ちになった。だけど、あきらめてベッドに寝転がった。
 
「アジア人に買われた白人はかわいそうだね。」
 
「うるさい。」
 
「また、泣くのかね」
 
「泣かない。」
 
「ネエとミックは一生ずっ友だね。だから、元気出せね。」
 
「泣いてない。」
 
遺伝子の再整列。治療を受けると別のミックの夢は見なくなった。彼の体を復元するために発見された遺伝子に残された、生命の軌跡は、真っ白な光の中で消えた。
 
「ミック!今すぐ乗船するね!」
 
「JIMMY!」
 
“最大船速で迎えに行きますよ。”

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