オリバーの小学生時代の自伝小説 あなたの不幸は、あなたの不幸 “大人は自由とか希望とか言った口で、女や男の体のあそこをなめるんだろ。それと同じだよ。” O.A.L. 6-12 彼はすっかり飽き果てていた。彼を喜ばせるものは、もうあまり見られなかったし、最初の悦びは六歳で経験した。彼にとって、官能と享楽ほど味気のないものはなかった。人々の心のゆとりのもたらす馴れ馴れしさほうが、彼の素直な心にはよほど効いた。綺麗な容れ物に対して向けられる自然な好意に罪悪感を持つことを覚えた。気の合う醜男を親友とし、プリンスと呼んだ。白い肌の中の黒い欲望を、黒い肌の中の赤い肉で中和しようとした。だが、プリンスはあまりに黄色かった。心の動揺を無くすと、安っぽい恋愛のまねごとをした。彼は大の男嫌いだったが、男とばかり関係を持った。そして、プリンスは彼にこう言うのだった。「綺麗なことは性欲の対象にされること。あなたのことはわかってるから。」彼は毎夜プリンスの部屋のカーテンをひく仕事を引き受けると申し出た。だが、プリンスはその友情を買っても、仕事を認めることはなかった。気持ちが通っても、プリンスに対して距離を置きたいと思うのは、彼の自然な決定なのだ。プリンスはどこにでもいて、どこにもいないものだったから。プリンスのことは、神か、そうでなければ悪魔か天使なのだろうと彼は感じていた。この不穏な空虚感は、空を見上げてもやってきた。人間が、自分が存在する意味を掴みかねた。ありもしない楽園を求めてさまようのは、いつも子供の仕事だと思った。彼の母親は奇妙な女性だった。子供の頃、彼は欲しいものがある時、欲しくないそぶりをしてみせないといけなかった。食べたいものがある時は、要らないと言って見せないといけなかった。さもなければ、何も得られないか、望まぬものを得ることになる。この法則は彼を上手く支配した。奴隷である男たちに、器とその味覚を与える代わりに、彼らの尊厳と優しさを踏みにじった。男たちは、王子様のご機嫌取りに苦労させられた。気の利いた会話、上等な食事に飲み物、そして柔らかいベッドの上で長い時間愛撫をしなければならなかった。シーツは白でなければ、王子の機嫌を損ねる。彼の最後のハロウィンの仮装は吸血鬼だった。衣装は店にあるものを組み合わせて、残りは母が縫った。それはどんなヒーローに化けるよりも、不動の自信を彼に与えた。なぜならその夜、かわいい吸血鬼ね、と呼ばれたのは、彼以外には見当たらなかったからだ。シルクのタイはきなりで、シャツはフレンチカフだった。カフリンクスが左右で違っていたことが、この思い出の唯一の汚点だと彼は考えている。自分さえ不完全なのに物に完全を望むのは、人間の驕りだ。十歳というのは彼にとって節目だった。その年彼は、『目覚めよと呼ぶ声あり』をしくじりながらも最後まで弾けるようになった。オリバーはバッハは少しも好きではなかったが、バッハを弾くと母親は喜んだ。眠ることは目を覚ますこと、全てを手に入れて全てを捨ててしまうこと。「なんでも新しいものがいいなんて、お父さんはひどい人ね。オリバーは女の子にやさしくできる?」「僕は男だよ。女なんて弱いんだ、当たり前だよ。ママ。」「あなたがいてくれなきゃ、ママきっとおかしくなっていたわ。ありがとうね、オリバー。」「もう一回弾いてあげるよ。」彼はこの誇らしい笑顔を、父親の愛人にもしてみせる必要があった。さもなければ、愛する母親がいかにひどい種類の女であるか思い知らされるはめになるからだ。「新君は先生に似ていますね。」「どうかな。飽き性なのがこの子の悪いところだよ。」「父子で似たんでしょう。でも、パパほどじゃないわね?」「父親の威厳を損ねるのは勘弁してくれよ。」氷の柱はどおして透き通って手に握ると溶けてしまうんだろう、と彼は思った。そして、手の中に氷を描いて握ってみることにした。それは実際、彼の飲み物の中に合った氷だった。「ジュースもっと頼む?」「大丈夫です。もうお腹いっぱいだから。パパ、まだ?」「新がせっかちなのも私に似たなんて、言わないでくれよ。」氷で少しだけ手が赤くなった。“僕にはこの人生しかないんだ、どうしてそれはあなたにも。”彼は帰り、後部座席でそうツイートした。それはおそらく、家庭という天国から発した、子供らしい言葉だった。そして、電飾で滲んだ夜は、彼の子供らしさを奇妙な形で清算した。 幼い頃の彼は、ひどい癇癪持ちでそのためにしばしば母親に病院を連れまわされた。どんな薬も、治療も、大した効果はなかった。なぜなら、癇癪を持っていたのは母親の方だったからだ。息子の発するわずかな感情的な表現さえひどい悪徳だと思っていた。彼は見えないところで傷む工夫をした。そのたび発見され引きずり出され、呪術師の作る丸薬を飲まされた。彼がしばらく行きつけになっていた病院で、いつも寝かされている少女がいた。祈祷師が彼女を訪ねるのを数度見た。それは一年の間続き、少女は姿を消した。彼は触診が嫌いだった。診察台の上で、彼は主権を放棄しなければいけなかったからだ。触診は、ひどい辱めだと感じた。医者は、彼の白いお腹をぎゅっと押してこう言った。「あの子は治ったんだよ。」 機嫌が良いときは、彼は理想的な子供だった。うまく大人のまねをして、少しだけ失敗をしてみせた。何事も完璧な子供は嫌われることを彼はよく知っていた。だから彼は、うまくできることも少し間違って、大人に仕事を残す癖をつけていた。街で見かける大きな看板の記号と、自分との違いは何かと思った。そして、自分には意味がないのだと気がついて、納得した。祖母は彼に、特別甘かった。彼女は昼頃からお茶の時間まではお針子の真似をした。そして一段落つくと、こう言うのだった。「ちょっと休んで、オリバーちゃんと遊んであげなけりゃね。」そして、棚からキャンディの缶を取り、中身を孫に選ばせた。そこには、銀紙にくるまれた卵型のチョコレートが入っていた。ごほうびを三つだけ自由に選ばせた。缶はところどころ錆びていて、彼はこれを汚らわしい、と感じた。「僕チョコレート好きだよ。おばあちゃんは怒らなけりゃもっと好きだ。」愛することは傷つけること、信じることは裏切ること、侵すことは最大の賛辞の送り方なのだ。どんなひどい死に方をしたら、他人は自分の死を感じるかと考えていた。彼は十歳で死ぬ計画を、六歳の時に立てた。あまり幼すぎても新しく作ればと思えてしまうから、ほどほどの年頃で死ぬのがよいと考えた。死ぬことは大した問題ではない。どう死ねるのか、そしてその死が何を起こすのかということが彼にとっては重要だった。十歳になってしばらくして、銀紙のチョコレートをもらうことがなくなった。唯一彼を心から愛していた祖母が死んだからだ。彼は悲しみを感じることはなかった。なぜなら、彼がその死を知ったのは数年してからだったからだ。この頃になるとプリンスは彼の前に現れなくなった。代わりに頭の中を、時折ノイズが走るようになった。細い針金をやすりで削る音と、両手に槌を持った石像が今ある光景に重ねて現れるようになった。神を疑うから、自分にはこんな罰が下るのだと結論付けた。彼は無心でオルガンを弾き続けた。それは観察という名の独学で学べる数少ない楽器だったし、姉との勝負に負けない程度の成果を上げるのにちょうどよかったからだ。彼は姉のように、絵筆をもって自由に心を記述したいと願っていた。だが、彼が筆を握る頃には、キャンバスは煤けて自由の虚無が全てを奪い去っていた。人はまったくの主観的動物だとして、善も悪もすべてを超越するのならば、自由さえもう必要がなかった。危ういほど尊く、奴隷と彼の関係を決定づける存在は、羽根を折って傷んで死んだ。彼は十三歳で成人したが、そのことには彼も周囲も誰も気がつかなかった。人は成長するということに対してまったくの無防備だ。彼は成長の熱を冷却するために、毎日を不感で満たした。感覚器官の働きを精神の力で圧倒した。だが彼は、極めて自然的な行為だけはやめられなかった。学校の帰りに寄ったフライングタイガーで、面白いものを見つけた。「あんたこれ買うの?」「お姉さん。後ろの電池もつけてよ。」「なんに使うの?」「肩が凝ってるんだ。」「もう少しうまい嘘考えて出直しな。」彼は人一倍小さくて幼かったし、誰から見ても彼のすべき遊びは自転車やスケートボードであって、自慰ではなかった。だが、性交を避ける代わりに道具で楽しもうと言うのが、どう不道徳なのか理解できなかった。Twitterを開いて、用意していた画像を数枚見せびらかした。彼の中の矛盾のない合一した性向は、絶望という形で現れた。現実の見える人間は死ぬし目くらのやつはどうやっても死なないもんだ、と彼は手帳に書きつけた。手帳には日記や、日々のくだらないことを継ぎ接ぎして詩を書いた。人を疑うことは信じることだ。彼の性もまた、もっぱら絶望という形で現れた。彼が褒められる頭の良さの生み出すものはどこまでも間接的な産物だ。教育された遠い言葉で離れた物を評するのは、ますます現実から遠ざかる。彼は知性に価値を見る人間に飽き飽きしていた、なぜなら脳を余すことなく観察することは出来はしないからだ。まれに向けられる、直情な欲望に基づく言葉は彼にとっては銀色の光をまとった崇敬だった。不純を纏った欲望に突かれても、単純な幸福というのは長続きしなかった。こんなことを彼は少しも望んではいなかった。搾取された女は、彼女の息子にも同様に搾取されることを望んだ。この悦びがなければ彼は歯車をここまで歪めなかったかもしれないし、だとしたら、彼を心底大切に思う男とも出会わなかった。曲がるくらいならばいっそ折ってしまった方が、安い不幸と隣り合わせることは避けられる。彼は生存する術を熟知していたから、売れない不幸は捨ててしまった。「オリバー、仕事に行ってくるわね。おじさんのところで大人しく遊んでいるのよ。」「僕は子供みたいに騒いだりしないよ。」 “じきじきに教えてあげる。どうせ君も死ぬ。” O.A.L. 12-13 彼の背中には痣があった。どうしてかわからないが、いつのまにか自然と浮かび上がるようになったものだ。白い肌の上に痣は赤く腫れあがるようで、こすると血が流れた。背中の痣はどうしたの?と聞かれると、僕のおじさんはこういう遊びが好きだったんだ、と言って男たちを困らせた。彼は男たちが、自分を大切にしようと試みていることを承知していた。だから、わざとオリバーをひしゃげさせ、目の前でずたずたに切り裂いた。そして奴隷の心が痛むのを見て満足した。彼は大きくなってからこれをノオドの痣と呼ぶことに決めた。寒く凍える土地の血が彼の体をめぐって表出した結晶なのだと自認した。彼にとって、痣は醜いことが誇りになった。不幸は幸福の証明だったし、空であればあるほど満たされた。 夢は時々、彼が石棺に封じた経験を蘇生した。彼はベッドの中から天井を見つめて、本物でも偽物でも、抱きしめてくれる愛がないのは悲しいことだと思った。ベッドカバーに描かれた恐竜と小さなねこのぬいぐるみが、誰も帰らなくなった家で、彼の友達だった。『ねーねーねー。狂った女が男の子を育てると、男の子は必ず狂うよね。狂った男が男の子を育てても、たくましい男になるくらいなのにね。狂った女が女の子を育てても、女の子は人との出会いで変わるよね。狂った男が女の子を育てても、男の言うことなんか蹴飛ばせる強さが育つものだよね。あーね。』その友達に飽きるころ、彼に新しい仲間ができた。趣味の合う大人の友達だ。彼はいつものやり方で、ウイスキーとブランデーを混ぜて飲んだ。それからヘッドフォンをして、Twitterを開いた。彼は毒入りだったから、彼の性は、まったく絶望だった。愛することは失くすこと、あるいは殺して自分のベッドに寝かせてあげること。どうすべき?が、彼の口癖で、それはとても簡単な選択かまったく答えの見えない難問に対して向けられた。「どうすべき?じゃないよ、ぼくがどれだけきみを心配しているかわからないの?」「ウイスキーのコップ半分くらいで怒るの?」「わかるよ。だけどいけないことはいけないと言うよ。」「僕が車に轢かれて死んだら泣く?」「轢かれる前に誘拐する。」「変わってるね。」「自分の夢をもって、かなえるんだ。」「どうして大人みたいなこと言うの?」「きみのことが大好きだから、幸せになって欲しいんだ。」 卵は生まれなかった子供だから、とても食べられなかった。この動物的意識の強いものを彼は出来るだけ避けた。それは、何かを殺しながら食んでいる暗示を彼にもたらしたからだ。裏切ることは信じること、敬うことは足で砂をかけることだ。彼はこれ以上、裸を知らない男に見せようとは思えなくなっていた。だが、親切に応える方法の一つとして残した。受け取る人間が変化を楽しめるように、手で伸ばしたり硬くしたりして、iPhoneで写真を撮って男に送った。「きれい!だけど白すぎていやらしくない。」「じゃあ見なきゃいいじゃん。」「きみ、女の子みたいだね。」「じゃああなたは女の子が好きなの?」一度汚したものも汚しきってしまえば、純潔を貫くより何より無垢で清い。幾何学模様の迷彩を変化の前触れが浴び、彼の体は成熟の方向を定めた。脳は飽和し、崩壊した。この男は、彼が親を作る行為に反対だった。人工親は、彼なりの生存本能のあらわれであったし、そのための行為は搾取ではないと彼は思っていた。男は毎日何時間も彼の話し相手をして、不道徳を改めるようたしなめる代わりに、彼を喜ばせた。二人だけの夜は、子供が遊園地へ連れていってもらうようだった、と例えると正確だろう。彼はこの男に精神的に依存し始めた。男は少年を存分に甘やかした。父親代わりだったし母親代わりでもあったし、兄であり友だった。男は英語を話したが、日本人だった。オリバーはずっと母と同じ日本人になりたいと思っていた。だが彼は鏡を見るたび、自分がガイジンの父に近づいているのだと理解した。学校へは行ったり行かなかったりした。彼を見張る人はいなくなっていたし、部屋で許可なく動物を飼うよりは堕落していないと感じた。冷凍食品も食べ慣れれば彼の口に合うようになったし、この国には安い屋台がいくつもあった。 彼は自分が傷つくと、他人が傷つくこともあると初めて学んだ。わざと怪我を作って生を実感してはいけないし、熱湯の中で手指を消毒することも、もうやってはいけないことだった。そんな話を笑ってすると、この男は真面目な顔で涙を流すし、その度、彼は自分の夢を見つけるという約束をさせられた。生まれた人は必ず死ぬのに、どうして僕は僕を考えなくてはならないの、と思っても口には出さなかった。どれほど知性の発達が早かろうと、感情の成熟には年月が要る。心は個人のものだが、心の伸長は個人の手には依らない。遠くにかすかに見えた小さな波頭を、彼は頭を振って打ち消した。それは、色がなく透き通って、空気の一種だった。あの泡が砕けてしまうと、不安も同時に広がった。だから、彼は精いっぱい頭を振って何もかもなかったことにしようとした。熱湯のシャワーは男の指紋を洗い流すのにちょうどよかったが、これもやめた。彼は日本へ引っ越しをする前に、友達から贈り物を貰った。似顔絵は、眼鏡を外すことを勧められたが、そのままがいいと言った。眼鏡の縁は、彼にとってはかけがえのない家族との思い出だった。なぜなら、眼鏡をかけない息子の顔を両親とも知らなかったからだ。日本へ着いて、もう片方の祖母の元で暮らし始めてすぐ、男からの連絡に返事をしようとTwitterを開いた。彼は大切に思うメッセージは開けずにとっておくことを選ぶ方だった。だが、彼のもとには“メリークリスマス!”という最後の言葉があるだけだった。数日して、男に伝えていた祖母の住所に手紙が届いた。そこには、長い謝罪の中に彼を励ます言葉が編み込まれていた。中には、映画が六本入っていた。「君はこうならない。信じているよ。」箱の一番上は“Good Will Hunting”だった。だから、彼は十三歳で成人した。一番愛していた母を捨て、一番憎んでいた父を許したとき、オリバーはもうそこからいなくなった。ポートレートは燃やされてしまった。少年は家族の肖像に火をつけた。信じれば裏切られるのならば、彼を育てるのは彼自身しかいなかった。それでも彼は、約束通り最愛の少女を見つけて、毎日を過ごそうとした。 “欠陥だらけの神様だって、いないよりはましさ。” O.A.L. 39 親友の女性が犬のぬいぐるみのおしめを替えている間、彼は椅子に腰かけて薄暗い昼を窓からのぞいた。数か月くすぶっている病の熱は、彼のピリオドを再体験させた。「僕を愛した人は、僕が古くなって、嫌になったんだ。」「だけど君はもうすぐ一八歳だ。そうはもう変わらないだろ。あと十年くらいずっと綺麗なままだ。」彼にとって、老いて醜くなって変わらないと宣告されるのは、麻酔抜きでナイフを入れられるようなものだ。それが一般に、彼の体の最も美しい時期であったとしても、彼の人生のもっとも愛に浸った時期とは無縁なのだから、その美は官能と時を過ごすことがない。彼は一式の鎮痛剤の使用を企てて、すべてやめた。これは肉体から発される痛みではないからだ。そうありがとう、とだけ小声でつぶやいた。あの白い波頭を僕はこぶしで握って潰して消してしまわなけりゃならない、さもなければ僕は僕の人生を始められるわけはないのだ。これまでずっと手帳に書きなぐられ続けてきた言葉は彼の決意だったし、この一句も祈りだった。男の愛したのも彼の一時期であり、他人の愛が永遠のものでない以上、彼は自然の成り行きに応じなければならなかった。あの小さな波頭は澄んで、彼の少年らしい野心の象徴だったし、海の荒々しさは彼の青年期が静けさでは綴られないことを告げていた。 目を覚ました彼は、犬を打った。二十年来連れ添った、犬を打って死なせた。彼の親友の女性が抱えていた犬を取り返して打った。ぬいぐるみだった。彼が見る、失いたくなかった夢を繕う、あわれな夢の住人だった。彼がナイキの箱の中にしまったのは子犬ではなくて、彼の少年期だった。自分をしまって死なせてしまった。だからあの犬は生きていて、彼を苦しめ、彼は憎み、棒で打ち続けた。彼を呪いもし、彼を生かしもしたのは、他でもない“かわいい吸血鬼”だった。 「ねえオリバー。昔から、かっこばっかつけて。そろそろ少しは自分に素直になったら。」 「できないよ。」 「日本旅行する?」 「どこいくの?」 「お墓参り、したことないんでしょう。」 「新幹線がすれ違う時、願い事をしたんだ。神様、彼を返してくださいって。」 「ね。別れなくたっていいのよ。だけど、ちょっと返してもらいに行こう。」 「飛行機は、嫌いだ。」 「あんたは子供だったんだから。何もわからなくてよかったの。」 「飛行機は、疲れるだろ。」 「どうもしなくてよかったのよ。」 → 第一部"140文字のアフタマス" あとがき 友人より ~小説(アフタマスとノオル)について~ この小説を素人作成の単なる青春小説だと断定し、打ち遣っておける読者は良い。貴方はきっとこれからも幸福というぬるま湯の中で、伸び伸びと身体を開けるだろう。オリバー君が求めるのは「純粋」である。決して獣のような恋や、手垢に塗れた愛ではない。そのような醜悪なものを彼は見透かしており、豚よりも醜い人々と堕落した社会に対して挑むのである。その姿に読者諸君も爽快と一種の神聖を感じるかもしれない。しかし、傷つけるものは傷つき、復讐するものは復讐されるのだ。これをただの小説と侮ってはならない。繊細で真に豊かな頭脳を持った貴方には理解できるかもしれない。呪いの小説であると。 ~作者について~ この小説を書いたLiv氏は、凛々しくもどこか儚げな印象の美少年である。しかし、その見かけに騙されてはいけない。悪や不正といった、この世の醜いものには容赦がない。白い肌を桜色に染めて、機関銃の如く繰り出される言葉には誰も太刀打ちできない。その恐るべき頭脳と行動力には感服せざる負えないが、ねーねこに愛情を注ぐユーモアと、才能ある弱者に寄り添う正義感をも持ち合わせている。日本が彼を認めなかったのは最大の過ちだろう。 【追記】 アフタマスは、作者Liv氏の半自伝的作品であり、 彼の人生中でも非常なる時 期の記録に当たるだろう。 プライドの高い彼が、なぜ このように弱みや過ちを赤 裸々に明かす小説を書き上 げることができたのか。Liv氏は元より、知性的な人間だ。上部だけの人間関係や一時的な快楽ではな く、どんな場合でも知的なものが彼を唯一満足させた。Liv氏は透徹なる知性で、彼を戒めていた全ての呪縛を解き放ったのだ。今や、Liv氏自身という広大な宇宙の中で、青春時代とは数ある惑星の一つに過ぎない。このアフタマスはLiv氏の人生の幕開けだ。彼が生き続ける限り、物語は生まれ続けるし終わることはな いだろう。 S.I.K |